第7巻 「流光」

-----------------------------------------------第7巻より抜粋


 進む先に、整然と並んだ敵兵の姿が映る。
 敵の一人が掲げ持つ旗印の色は、鮮やかな赤。
 九郎が手綱を引いて、馬を止め、鞍を降りた。敵兵の真ん中に、一目で大将と分かる、鮮やかな紺糸威の大鎧を着た武者が、大きめの太刀を抜いて立っていたからだ。
 追ってきた配下に馬を託し、九郎は一歩進み出た。
 が、九郎が口を開く前に、向こうの将が先手を切って喋り出した。
「見事な奇襲だったな。源九郎義経殿」
 その声に、歩き出していた九郎の足がぴたりと止まった。両軍の距離は約五十メートルもない。相手の声は勿論、顔さえ見えない距離ではなかった。
 だが、そこに至って九郎は初めて、正面に立っている紺糸威に赤の鉢巻をした男が、一体誰であるかに気がついた。
「ちょっと待て…っ」
 ざんばらな黒髪、遠目で見ても分かる世の中を斜に構えてみたような、不敵な笑み。一見人を食ったような、けれどとても人好きのする笑顔が、あろうことか、目の前の敵陣のど真ん中に立っていた。
 九郎がみなまで言う前に、ようやく追いついた望美は、ひらりと馬から降りた。そして、太刀を一振りして刃についた汚れを払うと、九郎を制して彼の前に出る。
「待て、望美…っ。あれは…!」
 慌てて、肩を掴んで連れ戻そうとする九郎を、望美はにっこり笑って黙らせた。
「大丈夫です」
 太刀を持つ手は震えていない。
 心臓の動悸もいつもと変わらない。
 自分でも驚くほど、望美はいつも通りだった。
 数歩前に出ると、両足を踏ん張り、望美は太刀を掲げた。眼前の幼馴染みを、真っ直ぐ鳶色の目で見据えながら。
「名のある大将とお見受けする。私は、京を護りし龍神の神子、春日望美! お相手を願いたい!」
 戦場における名乗りの作法通りに、望美が自ら名乗ると、向こうの大将は長身の肩を僅かに揺らして顔を伏せた。彼が笑いを堪えているのだと分かったのは望美一人で、九郎は、それは彼が動揺しているのだと盛大に勘違いした。
 数回肩を震わせ、彼は地面に突き立てていた太刀を引き抜いた。きっちり二歩、前に進み出て、望美の名乗りを受け止める。
「俺は、先の関白入道平清盛が一子、小松内府平重盛。白龍の神子殿、謹んでお相手仕る!」
 ほとんどはしゃいでいるような、底抜けに明るい名乗りの直後。
 将臣は力一杯地面を蹴って駆け出した。同時に、望美も両手で太刀を構え、脱兎のごとく走り出す。瞬く間に、将臣が近付いてくる。振りかぶった白刃の向こうに、彼の満面の笑みが見えた、と思った瞬間。頭の真上に振り下ろされた刃を、望美は左に飛んで避けた。勢い良く振り下ろした反動で、一瞬将臣の動きが止まった隙に、望美は足を踏ん張ってその場に踏み留まり、返し際に襲ってきた刃を力一杯弾き返した。



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福原の戦いは、謀略から始まった。
崖上から背後を突く望美・九郎・弁慶達、福原の正面口である生田から和議を結ぶと見せ掛けて、大手軍を率いて攻める範頼・景時。
崖上で戦いの始まりを待つ間、これからの戦いをまったく恐れない望美に、譲は不安と僅かな苛立ちを感じていた。
戦いが始まり、望美が、九郎が、将臣が、知盛が、景時が、それぞれの目的を果たすために、戦場を駆ける。
戦況が源氏に有利に働き出した時、平氏の軍勢に多くの怨霊が現れて…。




以下は、本編を読んでからお読み下さい。


























「読み終わったらお読みください」というか、大した話ではないのですが(笑)
ちょっとした言い訳と零れ話の場です。
こういうのお好きじゃない方もいらっしゃるかと思いますが、個人的には他の方のこういうの読むの好きなので。
良かったらお付き合い下さいませ。


宣言通り、福原の戦い尽くしの七巻。
こんなに色々戦闘シーン書くの久々で、すごい楽しかった記憶があります。
お気に入りは景時vs知盛。花火のスチルで片手で銃使ってた印象しか頭になく、拳銃的なイメージで書いてましたが、メインのキャラデザで持ってるのは火縄銃的なサイズでしたね…。どっちが正しいの兄さん!
あの景時の戦い方のイメージは、多分「ジャンゴ」の義経っぽい気がしますが、どうでしょう、過去の自分(笑)ただ、うちの景時的には、左腰には太刀とホルスターが提がっているという不思議仕様(笑)
実際の所、そんな格好出来るのかな。


そういえば譲も色んな意味で大活躍だったので、意外と白虎が目立ちましたね。
現代幼馴染みスキーとしては、ここではやはり譲も絡ませたいところです。本望。
弁慶もね、色々とやらかしましたしね…。
ものすごく色んなネタフリをしまくってしまったので、これからどうやって回収していったものか(笑)