第6巻 「Starting rom here」

-----------------------------------------------第6巻より抜粋


 気心の知れた景時や九郎の配下に送ってもらうならともかく、ほとんど接点のない範頼の手を煩わせるのは流石の望美も気が引ける。
「櫛笥小路に戻る配下の者もいますから、大丈夫ですよ」
 望美の驚きを汲んで、景時が助け船を出す。梶原家の郎党なら、望美も毎日邸で顔を合わせているから、気兼ねない。
 だが、範頼は望美の動揺を知ってか知らずか、朗らかな声で景時の言葉を吹き飛ばして笑った。
「いや、実は、そなたのことは、儂の郎党どもも、大いに興味があってな。太刀を振るって怨霊を鎮める戦の神子と、是非言葉交わしたいと、皆口を揃えて言っていてな」
「…じゃあ、お願いします」
 そうまで言われてしまっては、流石の望美も固持する訳にはいかない。素直にぺこりと頭を下げると、範頼は日に焼けた顔を破顔させた。普段はそれほど似ている兄弟ではない九郎と範頼だが、笑った時の人の良さそうな顔は良く似ている、と望美は思った。
「いいですよね、景時さん?」
 一応、保護者みたいな立場の景時に、事後ではあるが尋ねると、景時はほんのちょっとだけ困った色を浮かべながらも、笑って望美に頷き返した。
「望美ちゃんがそれで構わないなら、俺がどうこう言う問題じゃないよ」
「何、櫛笥小路まではすぐだ。何も取って食う魂胆ではないから、心配するな」
「はい。よろしくお願いします」
 と、望美は笑顔で頷き返した。
(不思議だな。こうやって、範頼さんと親しく話すことなんて、これまでの運命じゃ、一度もなかったのに)
 六郎範頼に会わなかった世界はなかったけれど、彼はいつも、望美が交わることのない、源氏の武将の一人で。評定の席で、戦場で、ちらりとその姿を見掛けるだけ。
 少し前までは、そうして歴史が変わっていくことに恐れも抱いたけれど、今はもう、変わっていく世界は恐くない。
 まだ見ぬ世界は、望美が一歩を踏み出した証。
 彼女がもう、立ち止まらない証明だ。
(必要なら、今までとまったく違う決断をするのも恐くない)
 その先にこそ、ずっとずっと望美が願い続けてきた世界があるのかも知れないのだから。
(…私が、源氏にいることに気付いてる将臣くんは、どうするのかな…)
 三種の神器の返還の交換条件に、和平を申し入れてきたのは、そのためなのだろうか。将臣は、望美と戦場で相対することを避けようとしているのだろうか。
 見上げた庭の先で、真っ赤な太陽が鮮やかな血の色を滴らせながら、築地の上に沈もうとしているところだった。
 その壮絶な景色を何とはなしに眺めながら、そう遠くないところで将臣も同じ太陽を見ているのかも、などと、とりとめもないことを、望美はぼんやりと考えた。



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熊野から京に帰還した望美達の元へ、三種の神器と引き替えに、平氏との和議を結ぶという知らせが入る。
北条政子から強圧的に発せられる命令に九郎が反発する一方で、望美は戦いを避けることは出来ないと感じていた。

福原の守りを固める平氏の中で、福原への出立を控える源氏の中で、将臣は、望美は、改めて幼馴染みと戦うことを決意する…。




以下は、本編を読んでからお読み下さい。


























「読み終わったらお読みください」というか、大した話ではないのですが(笑)
ちょっとした言い訳と零れ話の場です。
こういうのお好きじゃない方もいらっしゃるかと思いますが、個人的には他の方のこういうの読むの好きなので。
良かったらお付き合い下さいませ。


七巻を丸々合戦での話にしたかったため、出陣までの前フリの巻として出したら、36Pというこの長編では有り得ない薄さになった巻(笑)
久し振りにオリキャラが沢山喋って楽しかった!


この巻初登場は徳子。
時子腹四兄弟の末っ子で、安徳のお母さんです。勿論、旦那の高倉天皇とは政略結婚な訳ですが、先日友人に、徳子の女房の日記(『建礼門院右京大夫集』)に「政略結婚ではあるけど、縁あってこうなった訳だし、折角だから仲良くやろうね」という感じですごくラブラブだったらしいって書いてあったよ!という話を聞いて、超にやにやしました(笑)
本当は知盛とかとはもっと年離れてる筈ですが(ぴちょんくん、戦いに参加出来る年齢の子供いましたし)、ネオロマ的年齢設定の影響で、ちょっと若め&年子に。
単純に自分が出したかっただけ、というのもありますが、平氏陣に若い女子がいなくてバランス悪かったため、というのも大いにあります(笑)
お陰で時子ママの出番が減りました…(あれ)
まだあんまり書いてないので、これから掘り下げていってあげたいところです。


そして、薄々そんな風になる気はしていたのですが、九郎が目立ち始めました…。
やっぱり、恋愛メインで進むという要素を取っ払うと、青龍二人は目立つのですね…。鎌倉もカバーしようと思う以上は、当然の事態ではあるのですが。