第8巻 「泣けない夜も 泣かない朝も」

-----------------------------------------------第8巻より抜粋


 陣幕の真ん中の筵に戻って、九郎は望美に座るように指差し、自分はその前に座る。
「一つ聞きたいが、お前は何故、平氏の武将を庇い立てする?」
「それは…、…助けられるかも知れない人が死んでしまうのは、気持ちの良いことじゃないですから」
 本音半分、建前半分で望美はそう答えた。今から殺される事実が分かっているのに黙っているのは、望美達現代で育った者からすれば、非常に寝覚めが悪い。
 望美の返答を吟味するように、じっと彼女の顔を見据えて、九郎は顔色を変えずに続けた。
「…将臣のためか?」
「……それも、ない訳ではない、ですけど」
 今日の九郎はどうしたのだろう。思わぬ返し方に冷や汗をかきながら、望美は渋々頷いた。
 そうだ、理由のもう半分は将臣のため、だ。
 これまで望美が辿っていた運命の中で、福原の戦いで忠度が捕まったことなど一度もない。
 今、望美はこれまでの自分が辿ったことのない道を進んでいる。運命を変えることも、変えないことも恐れないと誓ったけれど、彼女が新しい運命を進み出したことで、忠度の運命が変わってしまったことは間違いない。
 将臣が守ろうとしている者達を、望美自身のために犠牲にしようとしている。
 この運命を更に変えることが出来るのなら、望美は諦めたくなかった。
 そう言う点では、将臣のためというのも、少し間違っているかも知れない。望美は、望美自身のために、忠度を助けようとしているのだから。
「…だが、将臣はそれで喜ぶかも知れんが、あの将は納得しないだろうな」
「…そうでしょうか」
 腕組みをし、眉間に深い皺を刻んだ九郎が、望美を諭すように大きく頷いた。望美の鳶色の目を見つめる九郎の目は、いつになく真剣で、半ば怒りを抑えているようにも見える。
「そうだ。敵に捕らえられて、おめおめ命を永らえ、あまつさえ人質とされ、一門の重荷になることなど、絶対に望むまい」
「…」
「俺があの将ならば、いっそ、一思いに首を切ってくれた方が有り難い」
 その方が、彼も惨めな思いをせずに済むし、誇りも守られる。
 九郎の言葉は、この世界の武将達にとっては、尤もかも知れなかったが、望美がそれで納得する筈もない。
「でも!」
 たとえどんなに悔しい思い、恥ずかしい思いをしたとしても、生きているなら何度でもやり直せる。チャンスがある。汚名は返上することが出来るし、雪辱を晴らすことは出来る。
 だが、死んだら何も出来ない。
 死ぬことは美徳ではない。
 望美が育ったのは、そういう世界だ。
 声を荒げて、一歩乗り出す望美を投げた視線で押し止め、九郎は緩く頭を振った。



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福原での戦いの後、何とか味方と合流した将臣達は、お互いの無事を喜び合うが、一ノ谷で戦っていた忠度が捕虜として捕まってしまったことを知る。

一方、これまで辿ってきた運命では、この戦いで忠度が捕まったことなどないと知っている望美は、何とか彼を鎌倉に送らせるのを阻止しようと、行動を始める。
九郎に直談判しては、にべもなく突っぱねられ、敦盛からは思い留まっては貰えないかと諭されて。
どんな形であろうと、死ぬよりは生きていた方がいいと願う望美は、皆の思わぬ強い反対に戸惑うが…。




以下は、本編を読んでからお読み下さい。


























「読み終わったらお読みください」というか、大した話ではないのですが(笑)
ちょっとした言い訳と零れ話の場です。
こういうのお好きじゃない方もいらっしゃるかと思いますが、個人的には他の方のこういうの読むの好きなので。
良かったらお付き合い下さいませ。


個人的MVPは九郎にあげたい巻(笑)
自分で書いてて言うのも何ですが、こんなにイイ男になるとは思わなかったんですもの!(笑)
ゲームの一人でぐるんぐるんしている彼とは別人ですが、頼朝の感情を薄々知りつつ、彼の愛情も信じたいと思っている方が萌えるかな、と(ぶっちゃけた。笑)
こういう九郎だからこそ辿り着ける、別のENDがあるといいなぁと思ってます。


あとは、知盛の「帝…」事件(笑)
ちゃんと、「帝…」って言わせた!(笑)
単純に、ゲーム五章最後で平氏の皆が再会したくだりで、知盛がやけに安徳に優しいな、というだけなのですが(爆)
何故かそこが妙に大好きで、ウチの彼はそこからキャラを作っていってます。
だから、望美のことを「獣のような女」っていう理由もゲームとは違うのです。
獣っていうか、熊のお母さんなので(笑)


そして、私の中では空前絶後というくらいに、弁慶が真っ白になってしまって、非常に背中がムズムズしました…(笑)
次からは、今まで通り黒い弁慶を書きたいと思います(笑)
何より私が耐えられない!