第5巻 「Lights brought the future」

-----------------------------------------------第5巻より抜粋


 思い詰めたように揺れる敦盛の瞳を覗き込んで、望美は静かに口を開いた。握り締めた手を離そうとはしないままで。
「敦盛さん。…私、知ってます」
「…なに、を?」
「…敦盛さんが、怨霊であることを」
「! …そう、か」
「ごめんなさい。イヤですよね。そういうの」
 俯いて、望美は深く頭を下げた。一瞬呆然としていた敦盛は、少しの間ののちに望美がしていることに気付いて、慌てて頭を上げさせる。
「いや、違う。そうではないのだ。…むしろ、神子に謝らなければならないのは、そんなことも口に出せない私の方で…」
「誰だって、人には言えない秘密はあります」
 会話に紛れて望美の手をこっそり振り解こうとするけれど、彼女は決して握った手を離さなかった。敦盛の目を真っ直ぐ射抜いたまま、彼の冷たい手を握って、柔らかく響く声で淡々と続ける。
「ね、敦盛さん。怨霊って、そんなに悪いことでしょうか」
「え…?」
「私には、清盛の気持ちが良く分かる…。彼は、自分が守りたいものを守りたかっただけなんですよね。怨霊を生むのも、彼がそれだけ愛しているから…。子供を、一門を、彼が腕に抱えた大勢の人達を」
 そうだ。幾度も時空を巡って、幾度彼と対峙しても、一度たりとも、彼を憎いと感じたことなどなかった。
 初めてこの世界に来た時、仲間達を殺したのは清盛だ。火に包まれる京で、彼は薄ら笑いを浮かべながら、いともあっさり望美の大切なものを奪っていったのに、不思議と望美は彼を憎もうと思ったことなど、一度もなかったのだ。
 望美には、怨霊の声は聞こえない。彼女の持つ陽の気は、怨霊を浄化しはするけれど、それは一方的な力だ。怨霊がどう思い、何を苦とし、何を哀しんでいるのかは、望美には分からない。
 一度だけ、朔に訊ねたことがある。
 怨霊と同じ陰の気を持つ朔には、怨霊の声が聞こえる。一方的に怨霊を浄める陽の力ではない、怨霊に寄り添い、それを打ち消すのが朔の力だ。
 黒龍を失った私には、あまり強い力は残っていないけれど。そう前置きして、朔は言った。
『怨霊から聞こえる感情は、皆、哀しいものばかりだわ』
 苦しい。哀しい。痛い。胸が張り裂けそうになる気持ちばかり。
 朔が黒龍を失っていなくて、まだ彼の力を使えたのなら、そんな断片的な感情だけではなくて、はっきり聞こえた筈だ。
 家族を失った老人の激しい嘆きと、自分達のために何処までも堕ちていく彼の姿を見続けなくてはならない、怨霊達の苦しみ。
「確かに、彼がしたことは許されないことだと思う。蘇った彼が、最初にしようとしていたこと以上の目的に、暴走してしまっているのも確かです。でも、だからと言って、怨霊は穢れた存在なんかじゃ、決してない。ただ、言葉に出来ないくらい深く、哀しい思いを持っているだけだと思うんです」
 敦盛の手を包む望美の手が、次第に熱を持っていく。
 呆然と望美の言葉を聞き続けるがらんどうの漆黒の瞳に、彼女の熱っぽい言葉がぐるぐる回る。
 今や二人は、会話の始まりが何処だったかなどすっかり忘れたまま、互いの空っぽの目と、熱っぽい目を交錯させているだけだった。



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現代から戻ってきた望美は、弁慶の協力を取り付けるために、彼と真っ正面から向き合うことを決意する。
これまで散々ぶつかってきた望美から協力を申し出られた弁慶は、望美が熊野別当の協力を得られることが出来たなら、手を貸してもいいと条件を出す。

姿を消す前の鬱々した空気を微塵も感じさせない望美の雰囲気に戸惑う敦盛や朔。
敦盛は、望美との距離が更に広がったと感じ、自ら距離を遠くしようとし、朔は弁慶に対する態度が真逆になった望美に動揺する。
一方弁慶は、望美と交わした約束の反面、兄と謀って己の目的のために平氏と連絡を取ろうとするが…。




以下は、本編を読んでからお読み下さい。


























「読み終わったらお読みください」というか、大した話ではないのですが(笑)
ちょっとした言い訳と零れ話の場です。
こういうのお好きじゃない方もいらっしゃるかと思いますが、個人的には他の方のこういうの読むの好きなので。
良かったらお付き合い下さいませ。


四巻までに繰り広げすぎた望美と弁慶のあまりの険悪さを埋めるのに、非常に苦労した巻(笑)
成功したかというと…ごにょ(苦笑)強引にまとめましたねー(てへ)
というか、必死に平氏と繋がり持ったり、背後で画策してる弁慶の計画を、まぁ望美が見事に潰す潰す(笑)書いてて、なんだか段々可哀相になってきてました(笑)
ゲーム中では、望美がこうと決めたことを完遂することが多いですからあんまり意識したことないですが、望美の決意に逆らったらこうなるのかと…(笑)
改めてあの子の色んな意味でのすごさを感じました。


あとは、ひさしぶりの敦望…。
そして、ここでもうほぼやりきってしまった感も満載(笑)
恋愛ENDの過程というより、仲良く両思いになったその後、敦望的に超えなきゃいけない要素をこれから埋めていく…というような感じなのかも。
今でも敦望好きな気持ちは変わりませんが、当時も今も、「萌え」というより、筋として一番書き易い相手、としてウチの話では彼が相応しいのかなぁ、と思ったりしてます。九郎とか将臣とか景時とかは、望美と恋愛関係にならなくても、兄上だったり平氏一門だったり一族郎党だったり、残る関係はある訳だけれども、敦盛とか先生とかは、望美と築く関係が全てになり得るので、その辺がウチの望美的には大事だったのかも。