第2巻 「Shadow of love」

-----------------------------------------------第2巻より抜粋


 明日はとうとう三草山に向けて発つ、という晩、望美は朔に手伝ってもらって、初めて革の帷子を身につけていた。膂力のない望美が、重い鎧を着るのは、動きが制限されることにもなって危険があるから、と出来るだけ軽いなめし革の帷子を特注してくれていたのだった。胸と腰の周りを守るだけのごく軽装な鎧ではあったが、何もないよりはずっと良い。
 朔に手伝ってもらって、帷子を着用してみた望美は、自分の姿を見下ろして、思いっきり顔をしかめた。
「かなり臭うね、コレ…」
「仕方ないわよ、狐の皮だもの。それとも、本当に大鎧を着るつもりだったの?」
 背中の紐を、ぐっと力を込めて結び、朔が苦笑いをする。
「そうだけどさぁ…」
 朔の言うことはわかるが、激しく生臭い臭いがするのは間違いない。油断していると、うっかりえずきそうになる。
 まだぶつぶつ言っている望美に、忍び笑いをし、朔は腰の後ろの紐も結ぶと、ばしんと背中を叩いて明るく言った。
「女の子なんだもの、傷がついたら困るでしょ? ほら、羽織着てみて」
 一斤染めの淡い桃色の衣の上に、赤色嚇の簡素な帷子、その上に縹の鮮やかな陣羽織。それほど物々しい意匠ではなかったが、帷子があるだけで、一気に雰囲気が引き締まる。
「籠手とかも用意した方が良かったかも知れないわね。そこまで思いつかなかったわ」
「大丈夫だよ。太刀もそんなに持ち慣れてないし、色々着て、重くなっちゃった方が危ない気がするもん」
「そうね。ちょこまか動くな、ですものね」
 先日の、梶原邸の庭での出来事を思い出して、朔はころころと声を上げて笑った。
 ちょうど、平家の三草山出兵の報がもたらされる直前だった。珍しく梶原邸にやって来ていた九郎義経が、望美と手合わせしてみようか、と言い出した。花絶ちを身に付けた望美の実力を、ある程度認めているものの、彼にしてみれば、それはあくまで「素人にしては」である。毎日のリズヴァーンの稽古にも、ちゃんとついていっているようだし、どれくらい腕を上げたのかな、という兄弟子の余裕から、そんなことを言い出した。
 が、生来負けず嫌いな望美である。少しばかり、九郎を驚かせてやろうと思い立ったのである。
『お手柔らかにお願いしますね』
 と、殊勝に申し出を受けたのも束の間、初めから全力で九郎と立ち合った。
 ひょいひょいと九郎の太刀筋をかわし、予想もしないところから攻撃をする。客観的に二人の実力差を見てみれば、明らかに九郎の方が二枚も三枚も上手である。いくら望美が何度も運命を繰り返して、腕を磨いていようが、一朝一夕では埋められぬ実力差は確かに存在する。
 けれど、この時は完全に望美の作戦勝ちだった。まだまだ初心者ですよ、と雰囲気で言っておきながら、最初から全力で立ち合ったのである。
 しまいに九郎が焦って汗をかきながら叫んだ。
『ああ、もう、ちょこまか動くなッ』
 その時の九郎の慌てっぷりを思い出しながら、朔は臆面もなく大声を出して笑った。
「あんな九郎殿、初めて見たわ。まさか、望美に押されてしまうなんて思わなかったんでしょうね」
「私も、あんなに動揺してくれるなんて思わなかったよ。ちょっと不意が衝ければ、って思ってただけだったのに」
 九郎には悪いが、何度思い返しても、これは良い笑いの種だ。望美と朔は顔を見合わせて、くすくすと笑いを堪えた。



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ほんの些細な偶然から、白龍の逆鱗を持っていることを弁慶に知られてしまった望美。
白龍の逆鱗で時空を越えられることなど、弁慶は知らないはずだけれども、こんなに早い段階からそれを知られてしまったことを気にしたまま、望美が鬱々としている間に、季節は初夏に移り変わった。
平氏が福原まで勢力を盛り返し、福原にほど近い三草山に陣を敷いたとの知らせを受け、出陣する源氏軍。
その戦いの中、無言で互いに互いを牽制し合う望美と弁慶。
そんな二人の静かないさかいに、なんとなく気付いているのは朔一人だった。
朔は、弁慶が望美を追い詰めているのではないかと疑い、逆に彼の行動に注視するようになるが…。




以下は、本編を読んでからお読み下さい。


























「読み終わったらお読みください」というか、大した話ではないのですが(笑)
ちょっとした言い訳と零れ話の場です。
こういうのお好きじゃない方もいらっしゃるかと思いますが、個人的には他の方のこういうの読むの好きなので。
良かったらお付き合い下さいませ。



この巻から、オリキャラ達が出しゃばりだしました。
みんな史実の人達ですが、ゲーム二次創作という本作の性格も手伝って、性格等は全てHALの創作と割り切って書いてます。
つまりは萌えの赴くままに!(笑)
ただ、ゲーム本編にも登場する面々が、軍記物語などでも美化されている人達なのに反して、オリキャラとして扱っている人達はマイナーだったり、良い風に書かれてない方達が多いです。
そのため、「いやいや本当はどうだったかなんて誰も知らないじゃん!」と開き直り、あえて妄想万歳・格好良さ山盛りで書いてます(笑)


時忠は立ち回りが上手すぎて、キツネのように陣営を変える小役人的な良くないイメージが強いのか、吉川英治版平家読むまで、まったく認識なかった人です。
狡い奴という感じで、人気薄だったんでしょうか。
頭良くて素敵だと思うのですけど(笑)
ちなみに、自分の娘を九郎に嫁にやったり、三種の神器を頼朝に献上したりして、乱後も生き残ったあまりのしぶとさに脱帽な人です(笑)
院政時代は後白河の近くで相当幅を利かせてたみたいですが、血の気が多いのか頭が回りすぎるのか、1・2回流刑になったり(笑)
波瀾万丈すぎてオイシイ!


宗盛・範頼両名は、平氏源氏のボンクラ扱いされてる可哀相な人のツートップ。
重盛・義経を美化する反面、「あいつヘタレにしとけ!」みたいな…(笑)
範頼は、「徒然草」の兼好法師が、平家物語読んで、「これには範頼氏の活躍が全然書かれてないよ!あれやこれやあるのに!」と言ってたらしいので、出来る人だったに違いない!と、思いこんでます(笑)
実際、義経はカリスマ性もあったかも知れないけど、人の言うこと聞かない、好意からの忠告も聞かない、独断専行が多いという感じで、所謂平家物語とかのイメージを、ちょっと悪い方向に解釈したようなところもあったらしいのに対して、範頼は頼朝に忠実で空気も読める(笑)タイプだったとか。
宗盛はどうなんでしょうね、ほんとは…。無能かどうかはともかくとして、彼は、絶対こういうタイプじゃないな(笑)
遙かの清盛があの姿なので、若い頃、生きていた頃の姿はこんなのかな…と思って書いてるのが宗盛です。