第1巻 「エトランゼ」

リセットボタンを押す。

その瞬間は、いつもほんの瞬きの間で、
私は良心の呵責も、躊躇いも、後悔も覚えたりなんかしない。

『この世にはやり直せないことなんかない』
失敗した、と呟いて、小さな赤いリセットボタンに手を伸ばすだけ。


たった。
たった、それだけ。
それだけで、全てが無に帰る。
ゼロに、スタート地点に巻き戻る。


ふと、立ち止まる。
自分の進んできた道を振り返って、
リセットボタンのその先に思いを巡らせてみる。

私の押したリセットボタンのその先にあった筈の世界は、
どうなってしまったのだろう。
其処から何も生まれ得ぬままに、世界の狭間に消えたのだろうか。
それとも、私の与り知らぬ何処かで、変わらず存在しているのだろうか。



見下ろした足許にあるのは、澱んだ血溜まりで、足が竦む。
踏み締めるのは、救うと誓った仲間ばかりの命ばかり。
蹴散らして、無造作に破り捨てて、吹きっ晒しになったもの。


私の胸から流れる血は、水と油のように、彼らのものとは混じれない。
いつまでも、いつまでも、私は独り、エトランゼ。



私の慟哭は、時空の狭間に木霊するばかりで、何処にも、誰にも、響かない。



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何度も運命を変え、再び冬の宇治川に立った望美。
一度だけ、時空の狭間で見た、仲間達みんなが幸せになれる未来に辿り着くため、彼女はもう一度、異世界での一年を過ごすために宇治川に戻ってきたのだった。
けれど、まだほんの源流の地である宇治の地から、早くも運命が変わっていくのを感じる。
望美は、まだ何も行動を起こしていないにも関わらず。

京の地で、不安に揺れる望美の心境を、素知らぬ顔の弁慶が見咎め、逐一目を光らせるが…。




以下は、本編を読んでからお読み下さい。


























「読み終わったらお読みください」というか、大した話ではないのですが(笑)
ちょっとした言い訳と零れ話の場です。
こういうのお好きじゃない方もいらっしゃるかと思いますが、個人的には他の方のこういうの読むの好きなので。
良かったらお付き合い下さいませ。


まだ白さの片鱗がある弁慶(笑)
白さというより、ドSMの片鱗が見られないともいいますが(笑)
1巻を書き始めた頃は、初めてゲームをプレイして1年も経っていなかった筈ですが、こうして読むと、すっかり京でのイベントが敦盛に会うことだけになってますね(笑)忘れてたのかな…。
当時は、熊野でのエピソード(実際のところは4巻の内容)をメインに持ってくる予定だったので、九郎とか景時とか譲とかまともに書く気がなかったんだと思います…(ひどい)

この頃は下調べも足りてなくて、源平合戦頃の知識といえば、卒論で得た偏った知識と、吉川版「新・平家物語」の偏った知識ばかりだったので、なんかちょっと導入っぽい描写を書くのに、えらい苦労した記憶があります…(今も別に、それほど詳しい訳ではないですが)
「義仲って、いつ入京したの!?」とか、「倶利伽羅峠の戦いは源氏では誰が行ったんだっけ!?」とか、「義仲が横暴したから頼朝に追討されたっていうのは分かってるけど、具体的には何で!?」とか、知らないこと満載で書いてました。我ながらひどいな…(苦笑)


あちこちで書いてる話ですが、そもそもこの長編を書き始めた理由は、
 @ゲームのシステム上、各所でフラグが立ちっぱなし
 A弁慶ルートを最初にプレイしたので、弁慶は黒いキャラだと信じてた
あたりが、そもそものきっかけです。
そりゃあ、普通に考えれば、譲ルートやってる望美が、還内府の正体を知っていたところで、「まぁ、そういうゲームだし」な訳ですが、望美の視点に立ってみれば、将臣ルートをやった後に譲ルートをやっているってことになる訳で。
そこら辺の矛盾、理由を突き詰めていったらこうなりました。
全員落としといて、大団円ルートはちと甘くないですか、という気持ちに、黒い弁慶を振り掛けるとこうなるのです(大笑)
だから、この話は、「望美の望美による望美のためのルート」、略して「望美ルート」です(笑)
望美自身が幸せになる話。
ええ、私、望美さま一筋なので!(笑)

弁慶はデフォルトで裏切りを視野に入れた、腹に一物抱えた底の見えない人、っていうのがアイデンティティーではなかったかと思うので、そういうスタンスを他の人のルートをやってても、崩して欲しくなかったなぁ、とか思ってしまったりして、こういうキャラにしてみました。