かみなり
「アクアストリーム!」
強力な水の渦が、逆巻きながらトーマを襲った。苦悶の怒号が天を貫く。だが、ヒルダも仲間達も手を止める事はない。隙を逃さず、一気に畳み掛ける。
ヒルダは一つ息を吐くと、間髪入れずに次の呪文の詠唱に入った。使っても使っても、身体の奥底から湧き出て来る力はとめどを知らない。
彼女の中で迸る力は、角を折ったはずのハーフとは信じられないくらいだった。想いの力はそれほどに強いものなのだ。
快感とも恐れともつかないものが、ぞくぞくっと背中を走る。
すらすらと口をつく詠唱は、まるで自分のものでないようだ。
その時、カードを構えて詠唱する手を、不意に伸びて来た腕が掴んで止める。
誰の腕かなど迷わなかった。こんな無遠慮な手はあいつしかいない。
集中を邪魔された苛立ちが、さらに集中を乱す。
邪魔をするなと怒鳴りつけようと顔を上げて、言葉が切れた。
見上げたその顔は、笑っていたから。しっかりと彼女の瞳を捉えて、明るく、生き生きと。
「頼むぜ、ヒルダ」
そう言って、当たり前のようにヒルダの前に躍り出る。
無邪気な強引さに、思わず呆れた。言うだけ言って、返事も聞かないとは。
だが、それでも良いような気がした。
「…上等よ」
唇の端をうっすらと持ち上げる。
再び蘇った集中力で、奇跡の言葉を紡ぐのだ。手袋をした指先から、艶やかな黒髪の一本一本、つま先から頭のてっぺんまで、力が満ちているのをまざまざと感じる。
「悠久の紫電よ…」
力持つ言葉が、神の雷を織り成す。彼女から生まれ出た閃光は、黒髪を、衣をはためかせるほどに踊り狂った。
「彼の者に宿れ!」
ヒルダの操る神雷が形を持ち、彼の者に、彼女の前に立つ背中に集約していく。
ただでさえボサボサな頭が雷の勢いでさらにかき回され、見事に逆立って揺れていた。
「行っくぜぇ!」
神雷をその身に受けし男は、渾身の力で神の引き金を引いた。
目もくらむ光が、轟音とともに弾けた。
「くそっ、逃がしちまったな」
あっという間に走り去ったトーマが消えた方を眺めて、ティトレイが舌打ちした。ゆっくりと雪の上から立ち上がり、ヒルダはティトレイと肩を並べる。
「まったく、あいつのトドメは私が刺すつもりだったのに。あやうくあんたに倒されちゃうところだったわ」
ずれた帽子を整えながら、ヒルダがぶつぶつとぼやいた。
「いいじゃねえかよ〜。結局ヒルダが追い返したようなもんだし」
すかっと倒して追い返した後なのに、ヒルダがそう言うのでティトレイは口を尖らせた。
「それに、俺は確かに誘ったけど、乗ったのはそっちだぞー」
「…ま、次があるだけ許してあげるわ」
今は本腰を入れて喧嘩するつもりはない。ヒルダは嘆息すると、乱れた髪をかき上げた。
彼女がそこまで怒っていないとわかった途端、ティトレイは拗ねた顔もどこ吹く風で、ぱあっと顔をほころばせた。
「じゃあ、そん時もよろしくな!」
「あんた…、ヒトの話を聞きなさいよ…」
にっこにっこと機嫌の良いティトレイの隣で、ヒルダは呆れ返って一際大きな溜め息をついた。
非常に悔しいことに、次回もきっと同じ展開になる気がしたことは、決して口にするまいと誓いながら。
初リバースSS。やっぱりティトヒルに嵌まってます♪
モクラド村での対トーマ戦、トドメの秘奥義がサウザンドブレイバーだったがために暴走した一品(笑)
「頼むぜ、ヒルダ」にしようか、「頼むぜ、相棒」にしようか迷いましたが、相棒はヴェイグだと思ったので名前の方にしてみました。ティトレイがヒルダの名前呼ぶのが大好きなのです〜♪
2004.12.31
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