もう、誰も奪わせやしない
「シャーリィ…、ありがとな」
真っ赤に腫らした目に淡い笑顔を浮かべ、モーゼス達と駆け出したジェイの背を見て、セネルが穏やかに口を開いた。
セネルの横顔を見上げて、シャーリィは微笑み、ふるふるっとかぶりを振った。
「わたしは、自分がそうしたいと思ったことをしただけだよ。
ジェイを守らなきゃ、って」
シャーリィの言葉に合わせて、蜂蜜色の髪がふわふわ揺れる。
細くて華奢なシャーリィが、守る、という言葉を口にするのはどこか不思議な違和感がある。守るというより、守られる方が似合って見えるのに、言葉尻も態度も堂々として、その時ばかりは彼女がメルネスであることを思い出させられる。
「キュッポ達は大丈夫だろうなって、何となく思ったの。皆、また生きてジェイに会うんだ、って気持ちが伝わって来たから。でもジェイは、あのままあの人と戦ってたら、殺されていた気がするの。
だから、引きずって連れて来ちゃった」
にっこり笑って言うシャーリィにセネルは満面の微笑みを返す。
「ジェイを守ってくれて、ありがとな」
「そんなの、当たり前だよ、お兄ちゃん」
シャーリィの視線の先には、笑顔の仲間たちの姿がある。打ち鳴らされる手も、髪をかき回す行動も、上がる声も、みんな幸せそうで。
シャーリィは、言葉を一つ一つ噛み締めながら口にする。
「わたしはもう、大切な人が傷つくところを見たくない。大切な人が奪われてしまうのは、絶対に見たくないもの」
「…ああ。だから、守るんだよな」
「うん。誰にも、奪わせない」
そうきっぱりと告げた二人は、ちらりと横目で視線を交わし合う。お互いの空と海の目に浮かぶ、確固たる意志に笑みが零れた。
蜃気楼の宮殿に向かうため、外のダクトに行った仲間達を、一番後ろから追う。
モフモフ族の村の入口を出る寸前、セネルがいきなり立ち止まった。しっかりと、シャーリィの左手を掴んで。引き止められ、シャーリィはワンピースを揺らして立ち止まる。
「お兄ちゃん?」
皆行っちゃうよ、と小首を傾げて尋ねると、セネルは不意に表情を崩した。何だか、ひどく安心したような、ちょっと情けないような、そんな顔になっている。
そんな情けない顔にぴったりな、情けない声で、ぼそりと呟いた。
「…ジェイのことも、シャーリィのことも信じてたけど。
…やっぱり、心配した」
再び目の前で連れ去られたシャーリィに、一瞬視界が真っ暗になった。もしものことがあったら。このまま二度と会えなかったら。
ジェイに何か理由があったのはわかったし、彼なら最終的にシャーリィを傷つけさせないだろう、と信じてはいた。それでも、心配しないなんてことも出来る訳がない。二人が無事に戻ってくるまで、本当に気が気ではなかったのだ。
「無事で、良かった…」
もう昔のように、焦って突っ走るようなことはしない。仲間を信じて、自分に出来ることを果たすだけだ。それが、現実にシャーリィとジェイを救うことにもなると信じて。シャーリィの左手を掴んだ指に、力が込もる。
「…うん」
正面からセネルの前に立って、シャーリィは左手を掴むセネルの手に、自分の右手を重ねた。
「わたしも、お兄ちゃんが心配だったよ」
「…へ?」
「焦って、飛び出して、みんなに迷惑かけてないかなぁって」
ぽかぁんと空色の瞳を見開くセネルを、シャーリィはきらきら輝く海色の瞳で覗き込んだ。
「大丈夫だった?」
トドメとばかりに、にっこり悪戯っぽく笑うシャーリィに。
セネルは、絶句した。
そんなセネルの様子を今にも吹き出しそうに眺めながら、シャーリィはくるりと身を翻して、仲間達の下に走って行く。白いワンピースと蜂蜜色の髪が大きくなびいて、シャーリィの笑顔を半分隠した。
仲間達のところに駆け寄る直前、シャーリィは堪えられずに笑い声を上げた。転がるように駆けながら、堰を切ったように笑い続ける。何事かと振り向いたクロエに抱きついて、ようやく一息ついたシャーリィに。
セネルは真っ赤になって叫んだ。
「シャーリィ!!」
「お兄ちゃん早くー!置いてっちゃうよ!」
目を白黒させるクロエの腕を引いて、シャーリィは元気に叫んだ。右手をぶんぶんと振り回し、セネルに眩い笑顔を投げる。がっくりと肩を落として銀髪をかき回すと、セネルはくしゃくしゃの前髪の間から、苦笑まじりの顔を上げた。
まったく、いつの間にこんなこと言うようになったんだか。
クロエや仲間達と笑うシャーリィを、空色の瞳を細めて見つめると、自然と微笑が零れる。
「…まぁ、いいか」
どんなことよりも、君が笑っていてくれるのが一番だから。
皆の幸せが一番だから。
少しくらい遊ばれてもいいか、と胸の中で呟いた顔は、思った以上に爽快だった。
仲良しセネシャリ。
こうやって、二人でじゃれ合ってる姿も見たかったなぁ、と(にこにこ)
キャラクエでの、二人から皆への想いが、とっても愛しかったです。
2005.11.5
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