「私は、もう堕ちるところまで堕ちましたから」
「シャーリィは、強いな」
漆黒の瞳を優しく眇め、呟かれた言葉に。
シャーリィは、小首を傾げながら隣の少女を見上げた。
「クロエだって、強いと思いますよ?」
「…腕っ節の話じゃないぞ」
くす、とシャーリィは柔らかい笑みを一つ落とす。
眉根を寄せて、口の端を引き結んだクロエに、尚もシャーリィの笑顔は止まらない。
「わかってますよ」
硬い表情を崩して、苦笑すると。
クロエは軽く頭を振る。
「幸せか、と問われて、幸せだ、と返したシャーリィに。…敵わないと思ったよ」
テューラの、姉と良く似た真っ直ぐな目を受け止め、一瞬海色の瞳を閉じたシャーリィ。
長い睫毛に縁取られた瞼を開けば、そこには溢れるほどの優しさが。
幸せだよ、と呟いた一言。
言葉にならない気持ち。
数え切れないくらいの後悔と謝罪。
そして、同じだけの感謝と愛しさ。
「…いいえ」
川風に、シャーリィの腰の下まで伸びたふわふわの金髪が、微かになびく。
訝しげに首を傾げて並ぶクロエを、深い海色の瞳がすうっと貫いた。
「私は、もう堕ちるところまで堕ちただけです」
はっ、としてクロエが息を呑む。
クロエの漆黒の瞳が揺れたのを見て、シャーリィも寂しげに微笑した。
絶え間なくたゆたう風は、クロエのマントも、シャーリィの淡い紅色の頬も構わず撫でていく。
「…そう、か」
姉も、友も失ったのは、彼女のせいではない。
だが、彼女のせいでもある。
「…クロエも」
隣を歩くシャーリィが、軽やかなステップを踏むようにしてクロエの方に身体を向ける。
白いスカートの裾が、風を孕んで大きく翻った。
「もう、後は上を見続けるだけでしょう?」
敵討ち以外は何も望まないと、安らぎを拒み、優しさを切り捨てた冷たい雨の下。
熱い涙は雨と流れて冷たく凍え、伝う頬を氷に変えた。
肉を裂く感触に耐えられずに剣を引き抜き。
眼前にくずおれる身体を正視出来ずに目をつぶれば。
もう、何も恐くない。
降りしきる雨が、剣と手にこびりついたぬるついた血と、耳に飛び込む荒い呼吸を、全て包み隠してくれる。
「…本当に、そうだな」
噛み締めるように言葉を紡ぎ、シャーリィの顔を見下ろすと。
見上げる海の色には、明るい光。
細めた笑顔の眩しさに、クロエも同じ表情を返した。
心の底から、シャーリィ大好きです。
そして、クロエも。
気付けば、この二人書いてるもんなぁ(笑)
たぶん、噴水広場で仲良くなった後、病院に行くまでの道での会話だと思います(思うって何/笑)
レジェンディアの、メインシナリオとキャラクエっていう構成、凄くいいと思うんですよね!
でないと、悩んで苦しんで色んなものを乗り越えた後のシャーリィやセネルの姿も見れないし、こうしてシャーリィとクロエが仲良くなってる姿も見れなかったかも知れないんですから…!!
心の底からグッジョブ、○ムコ。
すごくどうでもいいことですが、シャーリィの目の色=海の色、セネルの目の色=空の色です。
そういうの考えるのって楽しいですよね♪(あ、私だけ?/笑)
お題配布元
「五の不屈の精神」
2005.10.2
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