本日ハ晴天ナリ





 がきぃっ。
 振り下ろされた剣は、激しい音を立てて受け止められた。
「ちっ」
 鋭い舌打ちが響いて、クロエは直ぐさま後ろに飛びすさる。マントも帽子も取り去った彼女は、いつも以上に身軽で、一瞬で数歩の間合いが開く。一方、ナックルの金属板で剣を受け止めたセネルは、左半身を前に構えたままで防御の型を崩さない。じり、と摺り足で距離を詰めては、摺り足で距離を空ける。
 ナックルの向こうの、真剣な空色の瞳と、剣の向こうの、本気の漆黒の瞳が交錯する。
 剣と拳の勝負では、自分の間合いが取れなくてはどうにもならない。二人とも、むやみやたらと飛び出さず、じりじりとチャンスを窺う。お互いの出方を探り合う、数呼吸の間、成り行きを見守るギャラリー達の息も詰まる。
 クロエの切っ先が、誘う様にふらっと下がった。瞬間、セネルが一気に距離を詰める。地面を蹴り、右の拳を脇腹で構えて、狙うは正面。空色の瞳に映る覇気がぎらりと光る。
「もらったぁっ」
 鋭い一喝と共に、間合いを詰める。油断も隙もない、クロエの構え。考えずに突っ込んでも剣のリーチに阻まれるだけだ。体勢を低くし、左手首の籠手で剣を跳ね上げる。狙うは首。そこを押さえられればセネルの勝ちだ。
 空気を切り裂いて迫る拳を、クロエは首の皮一枚で辛うじて避けた。
「く…っ」
 左耳を、空を切る音が掠める。バランスを崩したクロエは、転がるように右側に倒れこんで、次の一撃から身をかわす。懐に入られてしまえば、剣のクロエに勝ち目はない。間髪入れずに襲い掛かる拳に、クロエは膝立ちで頭上に剣を構え、辛うじてそれを受け止めた。
「そろそろ降参しないか…っ」
 ぐっ、とセネルが拳に力を入れる。力勝負になれば、力の弱いクロエは不利だ。剣を構える手が震え、わずかに押される。相手の呼吸を感じるような距離で、拳と剣が火花を散らす。
 セネルの言葉に、ふっと、クロエの漆黒の瞳が細められた。
「随分と余裕だな、クーリッジ」
「お前こそ」
 にやっと答え、口の端を引くセネルを真正面から見上げて、クロエの真剣な目に不敵な光が宿った。
「いいや。お前の迂闊さには敵わないな!」
 叫び声と同時に、剣を思い切り薙ぎ払う。拳を跳ね除け、左足をばねのようにして跳び上がると、半ば体当たりするようにして、セネルの足を払う。予想外の戦い方に反応の遅れたセネルは、まともにくらって背中から倒れた。何とか受身は取ったものの、身体を起こそうとした瞬間、喉にひやりと冷たい感触が当たった。
 鞘に収めたままの剣を、セネルの首からぴくりとも動かさないまま、クロエがゆっくり立ち上がった。相手を斬り殺すためではない、鞘の中に納めたままの剣が、セネルの首に吸い付くように無造作に当てられていた。鋼の刃でもないのに、首に当てられた異物は冷や汗を流させるのに十分。ぴったり押し付けられた切っ先は動かしようもなく、少しでも身体を起こせば喉に食い込む。両腕を地面について、わずかに身体を持ち上げただけの格好で、セネルはぴたりと固まった。遥か頭上から見下ろしてくるクロエの表情は、満面の笑み。今すぐ笑い声さえ漏れそうな勢いだ。
「ほら。言った通りだろう?」
 半分泣きそうな顔になって表情を歪めると、セネルはばたんと地面に仰向けになった。そして、心底悔しそうに、ぽつりと吐き出す。
「…参った」
 セネルの宣言と同時に、張り詰めていた緊張がたちまち解れた。
「やったーっ!」
 剣を放り投げんばかりの喜び方で、クロエが両手を掲げた。同時に、二人の対決を固唾を呑んで見守っていた仲間達からも、悲喜こもごもの叫びが上げる。
 一列に並んで観戦していた仲間達の目の前には、二つのバスケットが、何故か仰々しく並べられていた。
 飛び跳ねて喜ぶクロエに、シャーリィにノーマ、グリューネが飛びつく。
「良くやった〜、クー!」
「ありがとう!」
「すごいわぁ、クロエちゃん〜」
 クロエの首に腕を投げたシャーリィを受け止め、ノーマに抱きしめられ、グリューネに引っ付かれたクロエが、満面の笑みを振りまく。
 だが、はしゃぐ女性陣に対して、男性陣はまさに悲劇の渦中だった。
「セの字〜! 何負けとるんじゃ!」
「根性が足りんぞ!」
 喧々囂々噛みつくモーゼスとウィルに、無言だが何か言いたげなジェイ。打った頭をさすりながらよっこらせっと立ち上がり、セネルは眉間に皺を寄せてぼやいた。
「そうは言っても、一対一じゃ、リーチの長いクロエの方が有利じゃないか…」
 それに、向こうは遠慮なくセネルを殴れるかも知れないが、こちらにはやっぱり遠慮というものがある。ぶちぶちと口の奥で言い訳をしながら、背中の土を払った。
「懐に入ってしまえば関係ないだろう!」
「ホンマじゃ!あ〜もう、ワレは本当に男か!」
 セネルの言い訳は何処吹く風、ウィルとモーゼスの口は止まらない。とうとうセネルも我慢出来なくなった。
「だったら二人が戦ったら良かっただろ!」
 と、セネルが反論した瞬間、たちまち恥も外聞もない言い争いが勃発してしまう。大人気なく怒るウィルに、ひたすら嘆くモーゼス、頑張ったのにちっとも報われないセネルに、必死に冷静を取り繕うジェイ。
 喜びさざめく女性陣に比べて、あまりにも情けない男性陣だった。
「さてさて〜」
 祝勝会は終わったらしい女性陣の中から、ノーマが一人歩み出る。
「じゃあ、こっちのバスケットは貰うから♪ みんなはそっち、じゅーぶん堪能してね♪」
 にこにこにこにこと笑うノーマが、2つのバスケットのうちの1つを取り、女性陣の元へ意気揚々とスキップして帰る。いつも無駄に身軽なノーマだが、今は通常の数倍浮かれているようだった。スキップで、軽く30センチは飛び跳ねている。
 帰還したノーマとバスケットを囲んだ女性陣から、嬉しそうな、頂きまーす、の声が上がった。彼女達の歓声をバックに、残ったバスケットを時限爆弾のように囲んで、男たちはゆっくりと顔を見合わせあう。
「…つかぬことをお伺いしますが、ウィルさん」
「………なんだ」
「いくら彼女だって、そろそろ上達してますよね?」
 冷や汗をだらだら流しながらも、あくまで笑顔を崩さないジェイが上ずった声で訊ねた。
「上達、か…」
 常日頃から肝をしっかり据えた、滅多なことでは動揺しないウィルが、青い空の彼方へ、ふわりと視線を投げた。
「していれば、こんなに己の不幸を嘆くこともなかろう…!」
 それは、親バカということに関しては他の追随を許さない彼でも、どうしても思わずにいられないこと。
 愛娘ハリエットの料理はどうしてここまで殺人的なのか、と。
 ウィルの調査に付き合って一日出掛ける一行のために、ハリエットはどうしても弁当を作ると言って聞かなかった。それは、置いてけぼりにされるのは嫌だという彼女の恨みと、父のために手作り弁当を作ってあげたい、という健気さの、絶妙な狭間の感情で。
 結局、いつもの如く付き合わされたシャーリィと、それぞれバスケット1つずつのお弁当を作ることになったのだった。
 本人の前では一応口にしないものの、みんなハリエットの料理にかなりの恐怖を感じているのは共通らしい。いざお昼の時間になった時、男性陣女性陣共に、シャーリィの作った弁当を食べたがったのは言うまでもない。クジ引き、じゃんけん、はたまた平等に分けるか。色んな方法を考えたものの、最終的には、男性陣女性陣に分かれて、拳に訴えることになったのだった。女性陣代表は言わずもがなのクロエ。男性陣は、熾烈な譲り合いの結果、セネルに決まり、今に至る。
「…やっぱり」
 ジェイにしては随分と珍しく、がっくりと肩を落としている。以前食べたハリエットの料理の味がトラウマになっているらしい。
「ワイ、まだ死にとうないわー…」
「ええ…。今ばっかりはモーゼスさんに同意します…」
「二人はまだマシだぞ。俺なんて、3日に1度は食わされてる」
 どんよりした空気を背負ったモーゼスとジェイを恨めしそうに睨んでセネルがバスケットの蓋を開けた。ハリエットの料理ばかりは、流石のシャーリィも恐れていると見え、必ずセネルの家で料理教室を開くのだ。となると、試食係は迷いようもなくセネルで。いい加減、そろそろ泣きたくなってきた。
「それを言うなら、俺は毎日食ってるが」
 座った目で、むんずと握り飯を持って、ウィルが三人をぎろりとねめつけた。
「腹は減ってるし、残すのも言語道断だ。となれば、食うしかあるまい」
 おいおい勘弁してくれ、という汗が、三人の全身から猛烈な勢いで分泌される。が、そんな若人達の躊躇いを、親バカ父は娘への愛で一蹴した。形はそれなりの握り飯を、がっつり、口に放り込む。
 お味は…、とばかりの若人達の視線を無言で振り切り、ウィルは静かに食事を続ける。セネル達は、ちらちらと決心つきかねるように目を合わせたが、最終的にはおそるおそるバスケットに手を伸ばした。確かに、腹が減っていることに違いはない。そして、ハリエットが一生懸命作ってくれた、というのも確かなことで。
 三人も、意を決して、それぞれの口にお弁当を押し込んだ。
「う…っ」
 一様に、呻き声が絞り出された。
 これは、何と言う味と表現すれば良いのだろうか。辛いような、舌がぴりぴりするような、かつ苦いような…。と思えば、随分こってりしているような気もしたりして。
 一言で述べれば、つまり筆舌に尽くしがたいのだった。
「でも、前よりはマシなような気も…しませんか?」
 息も絶え絶えになりながらも、ジェイがようやく口を開く。確かに、飛び上がって、走り回る程のすさまじい味ではない。
「おぅ…。何とか食えそうな気がするのぅ…」
 それは、ハリエットの腕が上がったのか、はたまた皆の味覚の方がハリエットの料理に合ってしまったのか。脂汗の下で、モーゼスは何とかご飯を飲み下した。どっちにしろ、この状況では、食べられるに越したことはないのだった。物凄く低いテンションでお弁当を貪るセネル達は、持てる限りの根性を総動員して、バスケット1つを、無事完食させたのだった。








 いきなり無言になって、黙々と食事を始めたセネル達をちらりと盗み見て、クロエがぼそりと声を落とした。
「ずいぶんと静かになったな…。…よっぽどの味なんだろうか」
「まぁ、しょーがないよ。ハッちの料理、殺人的だもん」
 ハムのサンドウィッチをぱくりとかじって、ノーマはあっさりと言い切った。アレを食べるか、シャーリィの作ったものを食べるか。二つに一つの選択肢。食べたくないなら、向こうに食べてもらうしかない。実に簡単な方程式だ。
「少し…、悪い気はするな」
 呟いて、クロエは溜め息をついた。彼女の手の中にあるのは、卵のサンドウィッチだ。そりゃあ勿論クロエだって、ハリエットの料理は出来れば遠慮したいけれども。やっぱり何となく、気が引けた。
「そうですね」
 同じくサンドウィッチを手に取りつつも、シャーリィも申し訳なさそうだ。会話もなく、黙々と、機械的に中身を押し込む男性たちを見やって、クロエとシャーリィは憂い顔を見合わせる。
「ちょっとちょっとクーにリッちゃん! 同情じゃ腹は膨れないよッ!」
 ノーマの主張はもっともだ。シャーリィ作の弁当の方が良いと、セネルとクロエが対決までしたというのに。頬を膨らませるノーマは、クロエとシャーリィの眼前に指を突きつけて言い放つ。
「世の中弱肉強食! 勝ったものだけが御飯にありつけるの!」
 胸を張って、ずばっと宣言する。ノーマが言うと、やけに説得力があった。
 それはまったくもって一理あるので、クロエもシャーリィも、ノーマを宥めてお昼に戻る。卵にハムに、ラズベリーのジャムに、きゅうりとトマトのサンドウィッチ。おかずは少しのあぶり肉。シンプルな方が、失敗も断然少ないと思うのだが、ハリエットにとって弁当とはそういうものではないらしい。おにぎりやサンドウィッチなど主食に始まって、おかずは3品。そしてデザート。ちなみにおかずはどれも手の込んだものばかりだ。上手に作れば、大満足の一品になることは確実だろうが、その分失敗するポイントも多い。
 そして、ハリエットが挑戦しては失敗している料理に苦笑いしつつも、シャーリィもセネルも協力は惜しまない。彼女の意気の強さと、ウィルのためという熱意はわかるからだ。
 そんな数々の好条件に支えられ、彼女の料理への探究心は日々順調に空回りしている。
「さ、とっとと食べて、さっさと探索再開といこーかぁ!……って、グー姉さん?」
 右手を掲げて元気いっぱいの声を上げたノーマだが、視界の端で何やら妙な行動を始めたグリューネに、ふと目が止まった。バスケットの中に半分ほど残ったサンドウィッチとあぶり肉を、少しずつクロエとシャーリィ、ノーマに配り始めたのだ。
「グリューネさん…?」
 ぴったりハモるクロエとシャーリィの声に、グリューネはにっこりと笑顔を咲き綻ばせた。
「お裾分け♪」
 頭の上に疑問詞を浮かべて、自分を見つめる3対の目をものともせず、グリューネはひょいっと立ち上がり、バスケットを提げてふわふわとベールを揺らして、男性陣の方に歩いて行く。
 両手にサンドウィッチとあぶり肉を握らされた3人は、ゆっくりと顔を見合わせた。クロエの漆黒の瞳と、シャーリィの海色の瞳と、ノーマの鳶色の瞳と。三様の瞳が、同じ光を湛えて見交わされた。
 最初に、口を開いたのはクロエ。
「…お裾分け、とはそういうことか」
「…さすがグリューネさんです」
 行動がまったく読み切れない。だが、にこにこ笑う横顔の明るさは確かに伝染してくる。
「グー姉さんには敵わないねぇ」
 言ったノーマの言葉は、呆れているような、笑うのを必死で堪えているような。だがそれは、間違いなく、グリューネへの最大の賛辞と、心の底からの同意だった。
 そしてまた、それはクロエとシャーリィの思いでもある。
 3人はもう一度顔を見合わせて頷くと、両手にお昼を抱えたまま、グリューネの彼を追った。








「はい、お裾分け♪」
 何とかバスケットいっぱいの料理を完食させたばかりの男性陣は、一瞬彼女の言葉の意味がわからなかった。呆けて、やけに神妙な表情になっている彼らに、グリューネはあくまでいつも通りに続けた。
 つまり、いつも通り、突然に、だ。
「おいしいわよぉ」
 がぱっとバスケットの蓋を開けて、右手は頬に添えて。ハートだか花びらだかが飛び散りそうな笑顔であった。
「…それは、たぶん、よくわかるけど…」
 口ごもるセネルににっこり笑いかけ、ウィル、モーゼスジェイと順繰りに眺めて、グリューネはバスケットに残った4つのサンドウィッチの1つを手に取った。
「うーん…。はい、ジェイちゃん」
 ぴし、と固まったジェイを目前にして、グリューネはまったくいつも通りにのたまった。
「あーん、して♪」
 零れんばかりの笑顔でサンドウィッチを差し出して。固まるジェイを物ともしない。流石、ボケと笑いと空気の破壊を司る女性である。
 ジェイの脳内では、今、色んな疑問が渦巻いていたが、取り敢えずこの際、細かいところは頭の外に追い出すことにした。のろのろと手を上げ、グリューネの手からサンドウィッチを受け取ろうとする。いくらなんでも、彼女の言葉通りに、彼女の手からサンドウィッチを食べるというのは、心臓が保ちそうになかった。
「駄目よぉ」
 だが、天然お姉様はそれぐらいでメゲたりしなかった。ぷくっと頬を膨らませてサンドウィッチを取り上げ、ずいっとジェイの眼前に突きつける。
「はい、どうぞ」
 期待満面のその笑顔に逆らうほどの気力は、もはやジェイには残っていなかった。残りの三人が固唾を呑んで見守る中、ジェイは有り難くサンドウィッチを頂くことになってしまった。
 心底嬉しいような、心底嬉しくないような、本当に微妙な気持ちだった。
「あーあー、グー姉さんてば、ジェージェー、湯でダコになってんよー」
 いきなり、ノーマの笑い声が、ジェイの頭上から降って来た。爆笑しそうになるのを必死で堪えながら、上からずいっとジェイの顔を覗き込む。
 当のジェイは、耳まで真っ赤にして、口で受け取ったサンドウィッチを咀嚼していた。
「まぁ、ジェイちゃん、タコさん?」
 どこまでも、彼女に常識は通用しなかった。
 再びむせたジェイに、更に笑いの止まらないノーマ。見れば、クロエとシャーリィも必死に肩が震えるのを堪えていた。
「まぁ、それはともかく」
 気を取り直して、クロエがグリューネの手から丁重にバスケットを取り上げた。それを、ウィル達3人の前に差し出す。
「そういうことらしい」
「…そういうこと?」
「お裾分け。ね?」
 ね、と小首を傾げてクロエの目を見て笑うシャーリィに、クロエも笑顔で頷く。おもむろにバスケットを受け取ったセネルと、両脇の二人が中を覗き込むと、バスケットの中にはちょうど三等分出来るだけのサンドウィッチとあぶり肉が余っていた。
 今度は、男三人が顔を見合わせる番だった。
「皆で食べた方がおいしい。そう言いたいんじゃないか? グリューネさんは」
 にこにこしながらジェイを見ているグリューネに目を向けて、クロエは爽快に笑った。その言葉に背中を押され、ぱあっと顔を輝かせると、男3人は揃ってバスケットに手を伸ばした。
 心の中でも、ぴったり揃って、ハリエットに謝りながら。
 ハリエットがこの場にいたら、たちまちに頬を膨らませそうな、明るい笑顔であった。
「いっただっきまーす!」








「ジェイちゃん、おいしい?」
 ジェイの眼前で膝を抱えたグリューネが、俯いてもくもくとサンドウィッチをかじるジェイの顔を覗き込む。
「…ええ」
 嬉しいやら情けないやら、顔を上げられないままジェイは答える。いや、嬉しくないなんてことはない。それは絶対にない、のだが。何だか素直に嬉しいと言ってしまうのも、問題なのではないかと思うわけで。
「良かったわぁ」
 本当に嬉しそうな表情で、グリューネが笑った。そうは言っても、彼女が作ったお弁当ではないのだが。グリューネにとっては些細なことである。
 悶々とするジェイの脳内の葛藤が手に取るようにわかって、さしものノーマも助け舟に入ってしまう。細い腰に両手を当てて、グリューネと視線を合わせる。
「まあまあグー姉さん。そのへんにしといてあげなよ〜」
「? ノーマちゃんも、お姉さんに、あーん、して欲しい?」
「………へ?」
 たっぷり3秒は、返答までに間が空いた。次の瞬間、ひったくるようにノーマの手から彼女の分のサンドウィッチを奪い取ったグリューネは、もはや凶悪にすら見える笑顔をノーマに向かって投げたのだった。
「はい、ノーマちゃん。あーん、して♪」
「…………」
 グリューネの、世界中の無邪気さを集めたような、その純真さが恨めしい。
「本当に、グー姉さんには敵わないねぇ…」
 と、ぼやいたものの、ノーマは素直にグリューネの差し出すサンドウィッチを頂いたのだった。










 ハティには悪いなぁと思いつつも、こういうネタをひねらずにはいられない管理人です(笑)
 皆で仲良く!が基本でしたが、ちょっぴりジェイグリュ要素を振りかけてみましたv
 後半の、グー姉さん大暴れは書いてて楽しくて楽しくて仕方ありませんでした。
 やっぱりレジェはこういうノリですよねvv

 お祝い、ということで、図々しくも空豆莢さまのサイトの20万打越え&2周年記念に差し上げさせて頂きました。
 こんなところからですが、おめでとうございます!

2006.2.19