紫苑





 そろそろだ。
 崩れた壁で、なお正確に時を刻む時計を見て、ラクスは思った。
 プラントに戻った婚約者が、彼の父から一部始終を聞き、ラクスの捜索を命じられて、ここまで辿り着くまで、たぶんあと少し。




 なんと言っても、格別、会う必要はないはずだった。
 今の自分の状況を考えれば、むしろ危険すぎる。
 誰が死のうが、ラクスだけは死んではならない。それが、今の彼女を取り囲む状況だった。協力してくれる仲間たちの為にも、それだけは避けなければならない。誰も犠牲にしたくはないと思いながらも、今の自分は誰よりも生き延びねばならないのだということを、ラクスは良く知っていた。
 それでも、もう一度彼に会うことは譲れないと思った。きっとそれが、ラクスが彼にしてあげられる最後のことだから。
 伝えなければならないこと、伝えてあげたいことがある。
 たとえ、どんな危険を冒しても。
 立ち慣れたステージは、瓦礫と化して見る影もなくなっていた。無数の銃弾を撃ち込まれた壁。落下して粉々に砕けたライト。中央には大きなコンクリートの塊が天井から落ちて、ステージに突き刺さっている。ラクスは、そこに腰を落ち着けた。
 なにもここまで徹底的に破壊することはなかったのに、とラクスは心の中で溜め息をついた。ホールの座席には、見事な風穴が無数に開いていて、白い綿が飛び出している。ここですらこんな様子なのでは、住み慣れた我が家の方は絶望的だろう。
 彼は、ラクスの存在どころか、彼女の存在した証までも、全て根こそぎ消し去ってしまおうとしているようだった。いや、ラクスと言うより、彼女の父、か。仲間であり、ライバルであり、全ての意味において並び立つ存在だった二人。
 しとしとと涙雨の降る外と同じように、ホールは静寂に包まれていた。息苦しさなどはまったく感じない、穏やかで優しい静けさ。音のない音が、そっと密やかに満ちている。
 暇を紛らわすために、ラクスはつと口を開いた。喉から溢れる歌声は、彼女そのもの。ただ一人の観客もいないステージで、ラクスは無心に声を広げていく。
 これが自分の役割なのだと確かめるように、自信を秘めた艶やかな声で。
 これが自分の望みなのだと宣言するように、幸せそうな表情で。



 かたり、とわずかな物音を感じて、ラクスは歌う言葉を飲み込んだ。感じた音の先には、待ちわびていた人物が。壁の時計に目を移すと、ほとんどぴったり、予定通り。
 彼は昔から、時間に遅れたことは一度もない。それが、約束をしていない場合でも。
 やっぱり、と落胆を隠し切れない緑の瞳を見返して、ラクスはツインテールを微かに揺らして微笑した。
 まったくいつも通りに。
「…お久し振りですわ、アスラン」







『お久し振りですわ、アスラン!』
 中庭へと続く扉を開けた瞬間、視界の中にピンク色の髪が翻った。
『ラ、ラクス?』
 両手を後ろで繋ぎ、下からアスランの顔を見上げる。ものすごい近くから、無邪気な歌姫と視線が合って、アスランは一気に頭に血が上った。ずざざっ、ととにかく慌てて後ずさる。
『うっ、わ…!』
『ちっともいらして下さらないから、わたくし、忘れられてしまったのかと思いましたわ』
 慌てふためくアスランにはちっとも構わず、ラクスはぷくっと頬を膨らませて続けた。
『お忙しかったのですか?』
『えぇ、まぁ…。休暇じゃないとアカデミーからは帰れませんし』
 アスランの手を取り、ラクスは中庭へとスキップ交じりで歩き出す。陽の当たる広い庭の真ん中には、白いテーブルと椅子が出され、その上にはすでにティーセットとお菓子も並べられている。
 すっきりと晴れた陽差しは暖かくて、外でお茶をするには絶好の陽気だ。
『とっても美味しいクッキーを頂きましたの。きっと、アスランも気に入ると思いますわ』
 手を引きながら顔だけ振り返って、ラクスはぱあっと満面の笑顔を咲かせる。
 いつもいつも、こうして遊びに行くたびに、彼女は人のことなんてお構いなしの天然っぷりで。お茶をして、お菓子を食べて、散歩をして、本当に他愛のないことを話すだけ。
『どうぞ、お座りになって』
 指し示されて椅子に座ると、ラクスがポットから紅茶を注いでくれた。
『ありがとう。…おいしいです』
『まあ、良かった!わたくしもこの紅茶は大好きですの』
 砂糖もミルクもなしで飲む紅茶の、少し苦い味が心地良い。お世辞でもなんでもなく、ラクスの淹れてくれるお茶はおいしいと思う。無心になってカップを傾けていると、ふと視線を感じた。横目でそろそろと視線をずらすと、向かいでラクスが大きな空色の瞳をじっとアスランに向けている。
『……ラクス?』
『また、遊びにいらして下さいませね。わたくし、待っておりますわ』
 ほわん、と固い心も綻ぶ笑顔で、ラクスが言う。手に顎を乗せ、ほんのちょっぴり小首を傾げるような仕草で言うと、ピンクの髪がさらりと肩に流れた。
 その笑顔があまりにも無防備で、アスランはどきっと手を止めた。期待に満ちた空色の瞳に見つめられて、ようやくぽつりと言葉を返す。
『…ええ、必ず』
 照れて細めた緑の瞳に、控えめな愛しさを込めながら、アスランは小さく確かに約束した。







 銃口がまっすぐラクスを捉えても、彼女は少しも怯まなかった。
 一発で命を奪うものを目の前にして、何の悪意も計算もない笑顔で、いつものように笑うだけ。たったそれだけで、突きつける銃口と、その先に立つ彼女の立場が入れ替わる。震えているのは、銃を握ったアスランの手。追い詰めているのはラクス。
 震える銃口は、まったく狙いが定まらない。
 アスランにとって、今までこんなことは有り得なかった。銃を向けながら、決意が揺らいで、終いにはぽっきりと半ばで折れてしまうことなど。
 そう、キラを相手にした時でさえ。
 その言葉が脳裏に閃いた瞬間、血が滲むほどに奥歯を噛んだ。考えてはいけない。思い出してはいけない。ましてや、後悔するなどと。そんな資格が自分にあるわけがないのだ。
 震える腕を叱咤して、再び銃口を目の前の少女にぴたりと当てた。
 しかし、ラクスはそれを見て、にこと目尻を下げた。
「…それで、わたくしを撃ちますか?」
 とす、とラクスが瓦礫の上から舞い降りる。二つに結ったピンクの髪、空色のドレス、両手の上にちょこんと乗ったハロ。どれもいつもの彼女だ。ブラウン管の中で、この目で実際に、ずっと見続け来た少女のはず。
 なのに、その姿を見慣れないものだと思うのは何故なのだろう。
「軍人だから? コーディネイターだから?」
 一歩、ラクスが足を踏み出す。
「だから、ナチュラルと戦いますか?」
 ゆっくりと歩み寄ってくるラクスに、アスランは思わず後ずさる。
 たゆたう春風のようなラクスの声は、今は、低くて腹の底から響くよう。
「だから、お友達のキラとも戦うのですか?」
「それは…っ」
「違う、と?」
 向けられる銃口にも、ラクスはちっとも動じていないようだった。体の両脇に手を投げ出すと、解放されたハロが彼女の周りをひょこひょこと跳ねた。





 喜ぶ顔が嬉しくて、それに他に何を贈ればいいのかも、皆目見当がつかなくて。次から次へと作ったハロ。それでも、嫌な顔一つせずに、心底嬉しそうに受け取ってくれたラクス。そのことを話した時、苦笑いをして、貴方らしいですね、と優しく答えたニコル。
 散々文句も言って喧嘩もして、子犬のようにじゃれあった幼い親友。それでも、別れ際に贈ったトリィを今でも大切にしてくれていたキラ。
 今は、どれもいない。みんな、この手の中から零れ落ちてしまった。
 どうしてこんなことに。自分の世界を構成していたもの達が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
 こんな瓦礫だけの世界で、何を信じていけばいい?





 再びアスランの腕が震えていることに気付いて、ラクスは空色の瞳を細め、少し心苦しそうに微笑んだ。
 アスランの考えていることなど、手に取るようにわかる。ニコルが討たれたこと、キラを討ったこと、そしてラクスがしたらしいこと…。生真面目で、考え過ぎるアスランの頭の中なんて、今はパンクしそうになっているに違いない。
 苦笑のまま、次の言葉を続けようと口を開きかける。
 その時、アスランがまた、さっきとはまったく違う様子で身を翻した。ばっと客席を見やって、迷わずラクスを背に庇う。
「アスラン?」
 いきなり、広いアスランの背中を押し付けられて、ラクスが瞳を瞬かせた。
「…尾けられたか」
 頬を歪め、鋭く舌打ちをして、アスランは銃口を上げた。いくら突然の事態に驚いて、頭がいっぱいだったとは言っても、こうまで見事に尾けられるとは思わなかった。呆けていた自分を呪う。
「ご案内ありがとうございます。さすが婚約者ですね、アスラン・ザラ」
 客席の陰から、黒い服の男たちが現れて、あっという間にステージとその上の二人を取り囲む。一人残らず掲げた銃は、すべて二人に集まっている。
 目の前のアスランの背を見て、ラクスは微苦笑を漏らした。彼は、どれだけ悩んでいても、力を振るうことを厭っても、いざこのような状況になると咄嗟に体が反応してしまうのだ。黒服の男たちに向けられた銃口は、もう震えてはいなかった。
 暗い光の緑の瞳でぐるりと客席を見渡すアスランに、男たちが乾いた笑いを送る。尾けられていることにも気付かずに、ラクスの元へ彼らを案内する形になってしまった。
 父は、パトリック・ザラは、端から息子を信用してなどいなかったのだ。アスランでは、ラクスを捕らえることも殺すことも出来ないだろうと読み、泳がせて場所を突き止めさせ(もしくはおびき出し)、そして、ラクスを消す。「射殺しても構わない」ということはつまり、射殺しろ、ということと同義だ。
 数瞬の睨み合いの後、先に動いたのは黒服の男たちの方だった。いや、正確には動かされた、か。
 銃弾が、一人の男の頭を撃ち抜いた。撃ったのは、勿論アスランではない。呆気に取られたアスランと、途端に色めき立った男たちが、銃弾の放たれた方を窺った時、続けて数発の発砲音が響く。警戒する男たちを嘲笑うように、正確無比に発砲しては狙われた男たちは赤い血の糸を引いて床に倒れていく。
 瞬く間に仲間が倒されて、負けを悟った一人が、いきなり銃口をラクスへと向けた。彼女を背に庇うアスランに、緊張が走る。ここで撃ち返すわけにはいかなかった。飛び退ってかわすしか、と身構えた瞬間、腹に響く発砲音とほとんど同時に、目の前の男も床に倒れ伏した。
 たちまち、むっとするような血の匂いが鼻をつく。





 瞬間、脳裏に奔ったのは、同じ匂いの血の海に沈むキラの姿。
 すでにこと切れ、目蓋一つ動かさない。
 彼を殺したのは、一番仲の良い親友だったキラを殺したのは、この、自分の手。





 立ち尽くすアスランの表情の変化に気付いたラクスが、そっと彼の名を呼んだ。
「アスラン」
 その揺るぎない響きに、アスランははっと我に返った。見開いた目で、のろのろと、順繰りに周りを見回す。頭を撃たれて倒れた男、ラクスに駆け寄るザフト軍の制服を着た男たち、そして穏やかに笑う歌姫。
「アスラン、大丈夫ですか?」
 目の前の惨状にも顔色一つ変えないラクスは、アスランの心情ぐらいとっくにお見通しのようだった。見上げて来る、その空色の瞳を見て、思い出す。
 キラは死んではいない。目の前の少女が、たった今そう言ったではないか。
「ああ…」
 詰まった息を、ゆるゆると吐き出しながら答えるアスランを笑って、ラクスは彼の包帯に包まれた左手に触れた。
「見失わないで下さいませ」
 何を、とは言わなかった。
 それくらい、いくらアスランでも気付かないはずがない。焦点の戻った緑色の瞳でラクスを見下ろすと、アスランの腕を掴む手や、見上げる空色の瞳に浮かぶ色は真剣そのものだった。そんなラクスの言葉が、ずしんと心に落ちて来る。
「ラクスさま、そろそろ…」
 周囲をぐるりと見渡した、ラクスの味方らしいザフト軍の制服を着た男が、そっと耳打ちをした。血を流して倒れた男達は、起き上がらない。ひとまずの安心を確信しながらも、男はラクスを急かした。いつまた増援が来るかはわからない。
「はい、すぐ行きますわ」
 頷くラクスを、アスランは戸惑いながら見つめている。果たして、彼女をこのまま逃がしていいのか。自分の役割を、課せられた命を、頭の中で反芻する。だが同時に、先ほどラクスに告げられた言葉も、大きな重しとなってのし掛かって来て。






───貴方が信じて戦うものはなんですか。






 わからない。何もかも。
 何が正しい?
 何が答え?
 ──いや。何なら信じられる?






 思考がまとまらず、ラクスの前でどんな顔をしていいのかもわからなくて、アスランは顔を落とした。ダークブルーの髪で半分隠れた顔からのぞくのは、ぎりっと鳴るほど奥歯を噛み締めた、堅く引き結ばれた口許だけ。
 そんな風に悩むことしか出来ない自分を不甲斐ないと思いながらも、どうしたらよいのかわからないでいる。
 その両頬に、ふわり、と歌姫の繊手が差し延べられた。
 頬を撫ぜる感触に、弾かれるようにして顔を上げたアスランの緑の瞳が、ラクスの空色の瞳とぶつかった。
「ラク…」
 言いかけた言葉を、穏やかな笑顔が飲み込ませる。
「何を信じて、何と戦わなければならないのか。それがわからなければ、キラは再び貴方の前に立つでしょう。もう、迷うことなく、彼の戦わなければならないものと戦うために」
 ひゅうっと、アスランが息を飲む。同時に、緑の目がその言葉の鋭さに真ん丸に開かれた。
 両手をアスランの頬に添えたまま、ラクスは悠々と続ける。
「そして、わたくしも」
 そう言う彼女の顔には、迷いなど一片もない。
 争いが嫌いで、ニュースで流れる戦闘の話題に、泣き出しそうに頬を歪めていたラクス。ユニウス・セブンの悲劇を聞いて、一筋涙を流したラクス。
 その彼女が、目の前の死に動じないほどの、強い決意がそこには見える。
 アスランの顔に浮かんでは消える様々な苦悩を見つめて、ラクスは瞳を細めて両手を離した。アスランを見上げて、一言短く囁く。
「…キラは地球です。是非、お話されたら如何ですか?」






 信頼していたすべてのものを失った、子犬のような目をしているアスランを残し、ラクスは瞳と同じ空色のドレスを翻して踵を返した。その前後を、ザフト軍の制服を着た男達が盾のように取り囲む。
 ひょこひょこ跳ね回るピンクのハロが、定位置とばかりにラクスの両手に飛び込む。プログラムされた言葉を上げるハロに、彼女は明るい笑顔を向けた。そうして笑うラクスは、以前と全然変わらない。
 ただ成り行きを見守るしか出来ないアスランが、立ち去ろうとしているラクスの背に追いすがるように視線を上げると、いきなり彼女がくるりと振り返った。
「ピンクちゃんを連れて来て下さって、ありがとうございました」
 ふわりと、ピンクの髪があるかなしかの風に揺れる。初めて会った時と変わらない、彼女独特の人を引き込むような笑い方。
 それはまったく変わらないのに、どこかが違う。
 おっとりした天真爛漫なプラントの歌姫と、凛と口を引き結んでキラに国家機密のモビルスーツを託したと告げる彼女。
 果たして、本当のラクスはどちらなのだろう?
「アスラン」
 鈴を転がす天上の声が、自分の名を呼ぶ。
 その声が、自分の名を呼ぶことが、決して嫌いではなかったのに。
「わたくし、貴方のこと、好きでしたわ」
 さらりと、ラクスが告げる。
「貴方の優しさ、貴方の弱さ、貴方の悩み。みんな好きでした」
 ラクスの声が、呆然としているアスランの鼓膜を優しく打つ。空色の瞳を細めて凛と佇む歌姫は、その強さを穏やかさに変えて、微笑みを浮かべた。
「今も、きっと」










 開け放たれた扉から、涙雨の降る音がホールの中まで聞こえてくる。
 床に倒れた男たち。振り返ることなく立ち去ったラクス。眩いライトが、脆い目蓋の裏をちくちくと突き刺す。
 さぁさぁ。さぁさぁ。ここはこんなに静かなのに、一歩ホールから出ると、一瞬でずぶ濡れになるほどの強い雨が降っている。ここにいる分には気付かないのに。
 ラクスたちが消えた入り口へ、ふらふらと歩き出した。客席に倒れている男たちを避けつつ、銃を握った右手をだらりと下げて、頼りない足元を引き摺りながら階段を下りると、雨の音が強くなる。ほとんど反射的に銃を懐にしまって、そのまま躊躇もせずに雨の中に歩き出した。
 たちまち、全身に鋭い雨が打ちつけて、頭のてっぺんから爪先まで濡れねずみになってしまう。
 目蓋を開けられない程の雨を浴びながら、アスランはコマ送りの映像みたいにゆっくりと、口の端を持ち上げた。ぎこちない、笑みの形に。雫なのだか雨なのだかわからない水が、ダークブルーの髪を滑っていく。
「………ラクス……」
 君は、本当はもうずっと前から、何もかもを決意していたのか?
 こうなることを?
 こうして、立ち上がることを?
 それとも、離れていたこのたった数ヶ月で、彼女はこれほどまでに変わってしまったのだろうか。
「……………俺が、気付かなかっただけ、か」
 ラクスが心に秘めていた、深く熱く強いものを知ろうともしなかった。
 彼女の表面を見て、穏やかで優しい歌姫のラクスをただひたすらに、疑うことなく信じていた。
 耳に反響するのは、何もかもを覆い隠すような強い雨の音。作られた世界の空から降る、絵に描いたように灰色の空からぶちまけられる、作られた涙雨。冷えた身体に止めを刺すように、容赦なく降り注ぐ。
 水の滴るダークブルーの髪の下で、ぱちりと緑色の双眸を開くと、目の前に広がるのは霧のように視界を覆う雨のカーテン。一寸先すらも、まったく見えない。
 それは、今の彼の状況そのもののよう。
 何をすればいいのかなんて当然のこと、何処に行けばいいのかもわからない。このままでいいのかもわからない。何がしたいのかもわからない。








「………ちくしょう…っ」
 喉の奥で噛み締め、唸るように吐き出した言葉は、激しい雨に打たれ、掠れて消えた。残ったのは、途方に暮れる一人の少年だけ。
 押されるようによろりと歩き出すまで、アスランは、雨の中にしばらく立ち尽くしていた。
 手のひらから零れ落ちたものたちを、鈍く痛んだ頭の奥で懐かしみながら。














 種見る前に、友人様に「HALちゃんはアスラク好きそう」と言われました。
 続いてしばらくして、「キララク好きそう」とも言われました。更に「アスカガ好きそう」とも言われました(笑)
 どれやねん!(笑)と当時の私は思いましたが、結局のところ全部好きだったような気がします(笑)
 ビデオ貸してくれてありがとう!(にっこり)

 最終的にアスカガキララクになるにしろ、婚約者としての2年間があった訳ですし、あのシーンはアスランにとってかなりのショックだったんでないかしら、と思ったりしてこうなりました。ラクスにとってアスランは、自分と世界の未来を賭けるほどの価値はなかったんだな、と思うとアスランが哀れに思えてきました(笑)
 まさかラクスが、あんなに芯の強い子だとは思ってなかったでしょうしねぇ、アスランは(笑)

 紫苑の花言葉は、「思い出」「君を忘れない」「追憶」などなど。
 アスランにとっても、ラクスにとっても婚約者としての2年間はそんな感じなのかも知れませんね〜。

 
2006.4.2