それが全てだ





「そういえば…。ずっと、聞いてみたかったことがあるんだけど」
降るような星空の下、テラスのてすりに寄り掛かったアスランが、ふと思い出したように口を開いた。




「ん?なんだ?」
缶のカクテルを飲んで、少しご機嫌になったカガリが、自然と綻ぶ顔で、頭半分高い背を見上げる。
「…笑うなよ?」
「はぁ?」
「いいから、笑うなよ?」
妙にしつこく食い下がるアスランに首を傾げつつ、とりあえず頷く。
(まあ、自信はないけど)
と、カガリは内心、うそぶく。
今まで、アスランがそう言い出した時に、笑わなかった例など一回もないのだ。今回もきっと、笑ってしまうに決まっている。
そんなカガリの心の中の声を知らないアスランは、意を決して言葉を続けた。






「…カガリは、…俺のどこが良かった?」
果たして。
消え入りそうな声でそんなことを聞いてきた恋人に、カガリは至極彼女らしい返答をした。
すなわち、鳶色の瞳を、数回、ぱちぱちっと瞬かせる。
「はぁ?いきなりどうしたんだ?」
「だから…、…ずっと聞いてみたかったって言ったろ…」
穴があったら即座に潜りたい、と書いてあるような顔色でアスランがぼそぼそと答えた。
聞くんじゃなかった、と控えめながらもそんな気配が感じ取れる。




「ほっとけないとか、あぶなっかしいとか…。カガリは、俺のこと、よくそう言うけど、
だったらもし、あの頃俺の他にそんな奴がいたら、カガリはどうしてた…?」
もしかしたらカガリは、自分ではなく、そいつの方を選んでいたかも知れないのではないか?
馬鹿なことを、と笑い飛ばそうとアスランの顔を見て、カガリは言葉を失った。その顔が、その目が、あんまりにも真剣そのものだったから。
ぼけっと口を半開きにしながら見つめ返していると、アスランはカガリの沈黙に耐えられなくなったように、ふいっと目を逸らした。
それを見て、カガリははっと、この間が良くなかったことに気付く。




「…アスラン」
ほんの小さく嘆息して、カガリは閃くように笑みを浮かべた。
「私は、『もし』と『だったら』で進める話からは、卒業したぞ」
そして、アスランの首から下がっている真紅の守り石と指輪に、指の先で触れる。
「起きなかったことを考えたってしょうがない。
私はここにいる。そして、今、私の隣にいるのはお前。
それが、全てだろう?」
夜陰にきらめく鳶色の瞳が、アスランを見上げて、凛と笑う。
「そう…だな。すまない」
カガリの言葉の強さに、はっとし、アスランは苦笑いを浮かべて謝った。





「ま、あぶなっかしすぎて目が離せなかったのは、ほんとの話だけどな」
てすりに腕を投げて、カガリが鳶色の瞳をくるりと回し、アスランを横目で見上げる。
含み笑いいっぱいの、そんなカガリの言葉に、アスランはもう一度がくりと肩を落とした。
「それは、よーくわかってるよ…」
というよりそれは、俺だけじゃなくってカガリの方こそ。
そう突っ込み返したいのは山々だったが、余計なことを言うと墓穴を掘りそうだったので、アスランは素直に口をつぐむことにした。
心地よい沈黙で見上げた夜空は、零れるような満点の星でいっぱいだった。












このお題のテーマが赤だったことをすっかり忘れていた一品(笑)
慌てて、ハウメアの守り石と指輪の一文を挿入しました。

『Last Love Song』のアスカガラストの続き。
あ、別に知ってなくても全然平気な話ですが。

このお題の最後は、アス→カガでもなく、カガ→アスでもなく、また、切なくも苦しくもない、
幸せなアスカガにしたかったので、満足です。


2006.5.2

お題配布元
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