存在証明





もう一度この手に力を。
そう願ったのは、誰のためだった?



いつも強い君が流す涙。
悔し涙、傷ついた涙、嘆きの涙。
細い肩が、必死に、声を上げまいと小刻みに震える。
それを見る度、自分の無力さを噛み締めていた。


俺に出来ることはなんだ?
涙を拭うこと?励ますこと?支えてやること?



たった、それだけ?



この手で、君の憂うものを払い、君の望みを叶えてやることも出来ないのか。


悔しい、苦しい、歯がゆい、辛い、もどかしい、やるせない。
情けない。
自分がどんどん小さくなって、まるで何の意味も成さないものになっていくような気がして。



疑問ばかりが、一層一層折り重なっていく。



俺は、君の隣に居ていいのだろうか。
俺には俺の、するべきことがあるんじゃないだろうか。
君の為に。
俺自身の為に。




そうして。
君の隣にいられる権利を求めるように、俺は君の傍を離れたのに。
君の涙を拭うだけじゃなく、止めるための力を求めたはずだったのに。





なのに。
「分かるけど…。君の言うこともわかるけど…。カガリは、今泣いてるんだ!」
その言葉は、俺の思考の何もかもを打ち砕いた。


『もう2度と、オーブにも世界にも戦争なんて味わわせない』


「こんな事になるのが嫌で!今、泣いているんだぞ!何故君は、それが分からない!?」


『大切な誰かを失って、哀しむなんてこと、もう誰にも、味わわせたくないんだ』
触れれば、りん、と鳴るような、張り詰めた瞳を閉じて呟く。


「この戦争も、この犠牲も、仕方がないことだって。全てオーブとカガリのせいだって。
それで、君は撃つのか!?」


『だから、私は背を向けない。この世界から、争いをなくすまでは』
すうっ、と顔を上げて。ぱちり、と鳶色の瞳を見開いて。揺るぎない声で。


「今、カガリが守ろうとしているものを!」


『それまで、私は負けない』
君は、凛と宣言した。



「…なら、僕は、君を撃つ!」





君の涙を止めて、君の夢を叶えるために、俺に出来ることだと思っていた、この力。
これが、君を、傷つけているのか?



…だとしたら、俺は、どうしてここにいるのだろう…。








こぽ、こぽ、こぽ。
もう、何のためだかわからない。
もう、何の強さも持たない。
紅蓮の力は、意識と一緒に、暗い水底に吸い込まれていく。



こぽ、こぽ、こぽ。
静かに、静かに、ゆっくりと。









シリアスと、ほのぼのするのと、半分ずつのつもりで考えてたお題だったんですけど…。
このまま行けば全部シリアスっぽいです。
おかしいな(笑)

擦れ違いっぷりと、もがきっぷりがアスカガの良いところ。


2005.11.15


お題配布元
「Color title <red>」