還る場所





宇宙は静かだ。




漆黒の世界に、微かな光の星が目もくらむほどにちりちり瞬いていても。
どこに目を向けても同じ景色。
漆黒と、星と、機体の欠片と。




上も下もわからない。
いや、上も下もない。
それを決めているのは、今の自分の体勢だ。
それが宇宙。それが自分。







何も感じない虚空で、小指に嵌まった銀のリングの感触だけをリアルに感じる。
本当は指に嵌めるのは恥ずかしくて、胸から下げるとか、ポケットに入れておくとかしたかったのだけれど。
無くすのは嫌だったし、ちょうどいい鎖も見つからなかった。
だから、指に嵌めてしまった。どうやら女物らしくて、小指にしか嵌まらなかったけれど。








帰らなきゃ。



溢れてくる涙の下で思った。
帰って、彼女にたずねるのだ。このリングが、本当は誰の物なのか。






宇宙の真ん中で思った。
彼女のことを聞かなくちゃ。
家族のこと、子供の頃のこと、好きなもの嫌いなもの。
まだ、何も知らない。








言葉より思いより強く、涙ばかりが溢れて来て、狭い視界はたちまちいっぱいになった。







宇宙は、本当に静か。
感じるのは小指のリング、ただそれだけ。



そして、そこが、帰る場所。











書いてから思ったんですが、キラはあの指輪、首から提げてた…?
だとしたら、あの短時間で、一体何処から鎖を調達したんでしょうあの人…。
あの指輪は、ラクスがキラのために用意したんじゃなくて、お母さんの形見か何かを渡した、
と考える方が自然かな、と思います。じゃなければ、お父さんの形見。
キラが、ラクスに返さなければならない、と思うものですね。

無印本編中では、キララクは実はあんまり進展してなさそう。
というより、キラがラクスのことをちゃんと考えられるようになったのが、本編後なイメージです。

2006.8.28


お題配布元
「Color title <green>」