2,もう一度戻りたい



もう一度、あの頃に戻れたら良いのにね。


海の香りのする風が頬をかすめて吹いていって、シャーリィは我に返った。
両側には、ずらりと立ち並ぶ水の民。
彼女一人に注がれる、焼け付くように熱い視線。
それで、ここがどこだったのか思い出す。


望海の祭壇。
再び、因縁の儀式に向かう場所。


ねえ、お兄ちゃん。
もう一度、あの頃に戻りたいよ。
何も知らずに、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、ただ大好きでいられたあの頃に。


それじゃあどうしてダメだったんだろう?
私がお兄ちゃんを好きになってしまったから?
お兄ちゃんがお姉ちゃんを好きになってしまったから?
お姉ちゃんが私たちの前からいなくなってしまったから?


おかしいね。
いくら考えても答えが出ないの。

だから、もう私決めたの。
水の民のために生きるって。
だって、そうでしょう?
彼らは私のことを望んでくれているけど、お兄ちゃんが望んでいるのは私じゃない。


初老の水の民の長が、シャーリィを目で促した。
頷いて、少女は歩き出す。
彼女の胸を締め付ける、強い想いを断ち切る為に。
背をぴんと伸ばすと、金色の髪が黒い衣装の上で跳ねた。


一歩ごとに、海が近付いてくるとひしひしと感じる。
小さな檀の上に、ゆっくりと上がり、仰いだ空は澄み渡る快晴で。
滲んだ涙が零れぬように、ぎゅっと息を詰めて祈りの姿勢に入る。


今はもう、あの頃には戻れないけれど。


お兄ちゃん。
私は、あなたが好きでした。










 1周目、水の民の里での告白未遂の後は、とにかくシャーリィが可哀想で可哀想で。
 勿論、その後もなんですけど。

 それでもセネルは嫌いになれない、ステラは嫌いになれない、だからどうしよう、っていうのがこの頃のシャーリィの全てで、胸が苦しくなります…。のぉぉぉ、シャーリィ…!
2006.8.27