1,これは運命の悪戯
「ハーフ…エルフ、だと?」
ゼロスのその呟きに、銀髪の女性は、ついっと視線を逸らした。
だが、教皇騎士団の連中に周囲を取り囲まれてもなお、彼女は弟の背を支え、勿忘草の強い光の瞳を毅然と上げていた。
「そん…な。嘘だろ…?」
ゼロスの横で、目を真ん丸に見開いたロイドが、呆然と呟く。
冗談じゃない。
嘘だろ、なんて、こっちの台詞だぜ。
騒然とする研究院。顔色一つ変えていないのは、この状況を理解していないだろう、コレットとプレセアの二人だけ。
あんなに鮮やかに、視界の中に映った人は、本当に久方ぶりで。
けれど彼女は、さらに鮮やかに、ゼロスのその感情を裏切ってみせた。
まったく思いもしなかった、こんな方法で。
取り囲まれている彼女の背が、一人だけくっきりと浮かび上がって見える。
折れそうな気持ちを押し殺して、凛と顎を引く。何でもないと必死に取り繕おうとしているようにも見えるのに、同時にひどく余裕にも見えて。
それは、清々しいほどに明確な興味を掻き立てるのに。
横たわる事実は一言。そして、それが全て。
ハーフエルフ。
その一言が、全てを打ち砕く。
「…だから、神サマなんて、いないんだっつの」
ぼそりと吐かれた恨み言を、ロイドがふっと聞き止める。握っていた拳を、ゆっくりと解いて、ゼロスを見上げた。
「…ゼロス?」
「そんな都合の良い神サマがいたら、こんなことしないぜ」
長い赤毛を背中に払って、ゼロスは皮肉げに薄く笑った。蒼い瞳に映るのは、ただ一つ。小さくなっていく、一つの背中。
そう、こんな悪戯、仕掛けやしないはず。
気になった女がハーフエルフだなんて、そんなチープな悪戯。
「………くだらねぇ」
聞き取れないほど低く、吐き捨てて。
背に流した赤毛を揺らし、目の前で起こったことを切り捨てるように、神子はくるりと踵を返した。
いや個人的にはゼロリフィは「運命」でもバッチ来ーい!なのですが(笑)
きっと、ゼロスも先生も、運命なんて大っ嫌いそうです。
辛い過去を、運命なんて一言で片付けるのは、二人の性には合わなそうです。
2006.4.12