1,冷戦と熱戦、どっちがましか



 二人には、かれこれ5時間会話がなかった。


「めっずらしいなー。ゼロスと先生が喧嘩なんて」
 会話のない二つの背を見比べながら、ロイドが呑気に言い出した。
 宿の食堂のテーブルを囲んで、食後のお茶を楽しむ仲間達。
 リフィルは窓辺のソファで読書中。ゼロスは、カウンターで一人、ちびちびとワインを呷っている。
「そうだよね。いつもは、先生が一方的に怒ってる感じなのにね」
 暖めたミルクのカップを両手で包み、コレットがほえほえと続ける。
 一心不乱に研究書を読み耽るリフィルからは、近付いたら滅す、というオーラがびんびんに放たれ、一方のゼロスも、おちゃらけぶりは何処へやら、むっつり黙って眉間に皺を寄せている。
「っていうか、あいつは怒ってるっていうより、拗ねてるだけ」
 大皿に盛られた蒸しケーキを一つ取って、しいなが棘々した声で吐き捨てた。


 完全に無視モードに入っているリフィルはともかくとして。
 一見何でもない風を装いつつ、5分おきにちらちらと視線を流す、あの男。
 はっきり言って、うっとおしい。


「いつものうるさい喧嘩も勘弁だけど」
 寂しそうに肩を落とす、神子のじめじめした顔に向かって、幼馴染のくの一は、遠慮ない一言を投げつけた。
「どっちも変わりゃしないね」










 ゼロスがセンセに対して本気で怒ってるのは想像出来ませんでした。
 あ、リフィル先生が自分の身も気にせずに無茶すると怒りそう(笑)
2006.4.11